
人材紹介という、「プロの手を借りた転職」は、キャリアアップや、より活躍できる職場を探す目的で、多くの方に利用されている。
その一方、仕事が見つからず、藁にもすがる想いでご利用される方もいる。
根子の元を訪れた、30代後半・無職の女性、Dさんも、そのひとりだった。
「38歳、女性。独身で、バリバリ働きたい意欲はあるものの、現在のところ無職。新卒で大手金融機関に3年勤め、その後は看護師として10年以上のキャリアを積んできた。今回は10数年ぶりに一般企業で事務職として働くことを希望。希望年収は500万円以上」
根子は、転職希望者Dさんの簡単なプロフィールを見てため息をついた。看護師としては引く手あまたの経験だが、一般企業へ転職するには、10数年間の看護師経験がむしろマイナスになる。しかも、希望年収の500万円も、一般事務職の給与相場からすれば、あまり現実的とは言えない額だった。
転職を希望される方のなかには、高すぎる希望をお持ちになるあまり、転職に苦戦されるケースが多々ある。そんな場合、希望を叶えるお手伝いをしながらも、現実の厳しさを理解いただくのも、キャリアコンサルタントの仕事のうちだ。まずは直接Dさんとお会いして、お話を伺おう。それでご希望が変わらないようなら、少し厳しいこともお伝えしなければ…。根子はそう考えた。
Dさんは、伏し目がちに、自分の経歴を語った。新卒で大手金融機関の営業担当となったDさん。しかし、そこは売上ノルマが厳しく、達成できなければ怒鳴られる日々だった。精神的に追い込まれた彼女は、専門学校に行き直して看護師資格を取得し、看護師という道を選んだ。だが、一度大手企業を経験した彼女にとって、病院は別世界だった。ビジネスシーンとは異なる常識感や、時間の流れ方、病院という特殊な環境のあり方に、最後まで慣れることができなかった。それで、10数年勤め上げたものの、最終的には退職し、不況のさなか、38歳という年齢で無職になってしまった。
年収500万円の生活から、一気に収入ゼロの失業保険生活へ。家計が逼迫される中、早く再就職しなければと一般事務職に応募するものの、ことごとく書類選考で落とされる日々が続いていた。一般事務にこだわったのは、企業に戻りたい、しかし金融機関時代のトラウマから営業はつとまる自信が無いからだった。藁をも掴む想いで、彼女はクイックを訪れたのだった。もう一度、看護師時代の年収を叶えるために。
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「自分でできることは全て試したつもりです」とDさんは付け足した。あまりにも落選が続いたことに業を煮やし、年収300万円程度の求人に応募したこともある。しかし、そこでも面接のチャンスはもらえなかった。その現実が、Dさんに重くのしかかっていた。
「想像していたより、遙かに現実って厳しいんですね…」と、青ざめた顔をしたDさん。根子は、そのDさんの経歴や希望を深掘りする中で、こんな質問をした。「ひとつ伺いますが、事務職へのこだわりはありますか?」
「いえ。数字ノルマがない仕事なら事務以外でも…」
根子は続けた。「それでは、看護師と違うかたちで、医療の経験を活かせる仕事に興味はありませんか?」
Dさんは「もちろん」と明るい顔で深く頷いた。それを見た根子は思った。Dさんはむしろ逸材かもしれない、と。それは、根子ならではの発見だった。
根子は、入社1年目でチームのリーダー格に選出された経験を持つなど、抜群の加速力を持つ。その実力を買われ、根子はこれまで、注力事業や新規事業に強力な助っ人として呼ばれるユーティリティ・プレイヤーとして活躍してきた。複数の部署を渡り歩き、看護師と一般企業の双方に精通した根子だからこそ、Dさんの可能性に気がついた。
根子は静かに提案をする。「Dさん、医療機器メーカーのテクニカルコーディネーター職を、考えてみませんか?」



